最近映画を見なくなった営業より本日アップします。
今まで見た映画の中で一番良かったものは何ですかと聞かれたら、いくつかのタイトルが浮かんできますが順位をつけることはできません。でも、一番苦痛だった映画は? と聞かれたら迷うことなく1本の映画を挙げることができます。それはちょうど8年前に神保町の岩波ホールで見た『大いなる沈黙へ』というドキュメンタリー映画です。
カルトジオ会を母体とするフランスの修道院に密着取材したドキュメンタリー作品なのですが、もともと会話することを禁じられている修道院なので、タイトルの通り、支配するのは静寂のみ。BGMもナレーションもなくテロップすらありません。修行僧たちが何をしているのかすらわからない映像が169分間も続くのです。2時間49分! クライマックスもありません。体の向きを変えようとすると衣擦れの音が200席足らずの館内に響いてしまうほどで、カバンからペットボトルを取り出すことすらはばかられます。こうした緊張感の中では、咳払いひとつ起こらないものです。観客がみな音を立てなくなります。観客のひとりひとりが同じ気持ちでいることが痛いほどよくわかるのです。退出したくても音を立ててしまうので諦めます。繰り返し襲い掛かる睡魔と闘います。この映画を見ること自体が修行ではないかと思うような映画でした。なぜかこの映画が世界的にヒットし、あの岩波ホール入り口までの階段が行列で埋まったのでした。結局のところ身体感覚と共にしっかり記憶される映画となりました。(岩波ホールは来月で閉館します。)
約8年の時を経て、この映画を思い出すきっかけとなったのが、現在八潮市中央に建築中のY様邸だったのです。
そのことについて書く前にベリティスシリーズの色について。
パナソニックの建具ベリティスシリーズには[ナチュラルカラー][ペイントカラー][ソリッドカラー]にグループ化された16色が用意されています。この中で、一色だけ価格体系が異なるものがあります。それがワイルドオーク柄です。
それ自体、強い木目でヴィンテージ感のある独特の風合いがありますが、最大の特徴は、塗装対応品ということです。表面に塗料の定着を促す加工がされているため、DIY感覚で、お気に入りの色に塗ることができるのです。
さて本題に戻ります。
八潮市のY様邸では、リビングの入り口にこのドアを採用しました。
ベリティスのカタログにあったシャルトルーズ色を塗装屋さんが再現しました。シャルトルーズというのはアルコール度数55%のフランスのリキュールの銘柄です。黄緑色のお酒です。
シャルトルーズグリーンと呼ばれる色があり、トンボの色鉛筆「色辞典」の第1集にも納められています。
パステル調というのとはまた違った、独特のクラフト感が良い感じです。ドアや壁を自分好みに塗る、という発想は日本にはあまりありませんが、車のカスタマイズやチューニングと同じで、世界に一つしかないわが家だけのドアを手に入れることができます。
このドアのもう一つの見どころはチェッカーガラスです。アンティーク風の型板ガラスです。帰宅して家族のいるリビングに向かう時、はっきりと見えるわけではないけれど、ガラスから漏れるあかりと人影・・・こうした小さな風景が、「ああ、いまわが家に帰ってきたな」という感覚を呼び起こします。リビングのあかりは人を安心させます。
で、話を振り出しに戻します。
Y様がリビングのトビラにシャルトルーズ色を選んだ時に何か既視感のようなものがあったのですが、映画『大いなる沈黙へ』の舞台となった修道院の名前がグランド・シャルトルーズだったのです。母体であるカルトジオ会(カルトジオのフランス語読みがシャルトリュー)が産んだお酒がシャルトルーズだったわけです。調べてみると、リキュールのシャルトルーズには、ハーブの香りでスパイシーなシャルトルーズ・ヴェール(緑)と、蜂蜜の甘さのシャルトルーズ・ジョーヌ(黄)があるそうです。
Y様、竣工の折には、シャルトルーズ・ヴェールで乾杯なんて、いかがですか?