特定の色を偏愛する人というのは町内に一人や二人いるものです。頭のてっぺんからつま先まで紫色のおばあちゃんはよく出没しますし、黒いものしか着ないコムデギャルソニストにもよく遭遇します。
私には緑を偏愛する友人Sがいます。緑の愛車から降りる彼は緑のジャケットに緑のスニーカーを身につけています。シャツも財布も緑。スマホもカバンも緑。部屋にはいると、(もう想像がつくと思いますが)緑のカーペットに緑のカーテン、パソコンまで緑です。観葉植物まで緑でした。(当たり前か) 極めつけは、住んでいたマンションの名前です。なんと「エバーグリーン」でした。緑色のテレビはどんなに探しても売っていなかったらしくテレビはありません。
特定の色に対する恐怖症は「色彩恐怖症」Colorphobiaと呼ばれており、その中で「黄色恐怖症」はXanthophobia、「黒色恐怖症」は Melanophobiaと立派な名前が与えられていますが、特定の色に対する偏愛に名前はあるのでしょうか。寡聞にして聞いたことがありません。「けっこうな緑好き」も「やたらめっぽう黒好き」も病的な症状ではないということなのでしょう。
注文建築でお施主様が深く悩まれる領域のひとつは、「床の色」「壁・天井の色」をどうするか問題です。さらにこれに「サッシの色」「建具の色」「家具の色」が加わって、迷宮の世界に入り込みます。どれか一つの色を変えると、他の色も変えたくなって、ゴールが見えなくなってしまうのです。
一般的にインテリアの配色にはセオリーがあって、ベースカラー70% アソートカラー25% アクセントカラー5%の比率が推奨されます。大雑把に言えば、天井や壁がベースカラー、家具やカーテンがアソートカラー、クッションや置物がアクセントカラー といった感じでしょうか。(まあそんなにうまくいくものではありませんが。)
このセオリーを大胆に破壊する発想があります。
部屋をひとつの色に統一してしまうという発想ですカラードレンチング Color Drenchingと言います。
ドレンチというのは「満たす」という意味の英語なので部屋を特定の色で満たしてしまおうということですね。
壁紙を青く塗って、青いソファーを置き、青いカーテン、青い本だな、青いテーブル・・・・「青い部屋」を作ってしまうわけです。こういう部屋をつくる人は昔ならサイコパス扱いされかねませんでしたが、近頃は海の向こうで静かなブームとなっているそうです。
https://www.architecturaldigest.com/story/color-drenching-101
部屋が青で統一されたとしても、青にもバリエーションはあるし、そもそも光と影の効果で青にも表情があらわれる。単調なモノクロームというわけではないのですね。個人的にはこのカラードレンチングにはかなり魅了されます。やってみたいと思います。リビングを一色にするのは勇気と財力がいりそうなので、最初はトイレあたりからいじってみようかな、と。黄色かな?
緑好きのS君の部屋はカラードレンチングの”はしり”だったんだな。追いつかねば。